AMRicセミナー 10周年記念 (2019年8月)

 
 

★ 特別企画 山口先生へのインタビュー 〜この10年ってどうだった?〜

● 質問者: まず最初に、いつも疑問に思っていた事をお聞きしたいのですが、セミナーのテーマはどのようにお決めになっているのですか?


● 山口: メールなどでリクエストがあった場合にテ−マとして使わせて頂きました。そもそもセミナーを始めたのは専門学校の卒業生のご要望にお応えしてのことでしたので、リクエストがあったら積極的に受け入れてきました。それ以外はその時に疑問に思っていることや取り上げる必要性を感じたものを、テーマとして扱ってきました。ですのでセミナーのテーマは、その当時私が何を考えていたかを知ることができる記録に他ありません。


● 質問者: なるほど、そうでしたか。開始されて10年ですが、10年前と今とでは治療に何か違いがありますか?


● 山口: 10年前は鍼通電療法を中心に、指圧などの手技を加えた治療を行っていました。補助的に運動指導を開始した頃でもあります。触察は筋肉系が中心で、検査は運動器系の徒手検査や神経学的検査を丁寧に行うように心がけていました。今でも同様の検査を必要に応じて行うことはありますが、大きく変わった点がたくさんあると思います。


● 質問者: 変わるきっかけのようなものはあったんでしょうか?


● 山口: 患者さんを含めて人との出会いがきっかけになりました。中等度の靭帯損傷、捻挫や打撲といった外傷性の症状をきちんと治さないと競技復帰ができないアスリートに対して、いろいろ試してみたことが最初のきっかけだったと思います。また気候が安定せず、激しい気圧差や気温差で浮腫む患者さんが増えてきて、鍼通電を行う際に筋収縮が起こりづらくなったことを感じていました。

 時期は重なりますが、あるギタリストの方が局所性ジストニアの治療のために来院されたことが、治療を見直していく第2のきっかけになったと思います。この方は、ジストニアの症状がなかなか改善しないので、いくつもの病院や治療院で不適切な注射や鍼を受け、症状がかなり悪化されていました。複数の末梢神経損傷による異常知覚と麻痺症状があり、上肢のどこを触っても強い痛みが誘発されるというひどい状態でした。前述の理由で鍼 (針) に恐怖感をお持ちでしたので別な治療方法を模索していました。


● 質問者: どうやって治療されたのですか?


● 山口: まずヒントになったのは上腕のおびただしい数のうっ血所見でした。トウ側皮静脈から腋窩静脈にかけて触ってわかる程の血液凝集、小さな粒々ですね、これらが触れたので、アスリート治療経験を思い出して指で2時間かけて腋窩静脈へ流しました。その結果、2回の治療で痛みがかなり減りました。ようやく手の治療に専念できると思ったのですが鍼が使えないので思いついたのが綿棒でした。中手骨間にフィットしますし、硬くなった靭帯や筋肉を軟らかくするにもそれなりの効果がありました。この時に興味深い経験をしました。これまでは、刺入した鍼の先端で組織の状態を感じて旋捻すべきか雀啄すべきかを決めていたのですが、綿棒の先端で触ると全く異なった組織の形状や弾力性を感じました。さらに第3のきっかけ… というか、転帰がここで訪れたと思います。電気温灸器 Shouki と オームパルサー LFP-2000e、そして電気鍉鍼 との出会いがそれでした。


● 質問者: 転帰ですか!? どのような転帰になったのでしょうか?


● 山口: Shoukiのプローブや電気鍉鍼で圧をかけて触れると、組織の形状と粘弾性がより立体的にイメージでき、そのダイナミックな変化が伝わってきます。何よりも拘縮した靭帯や腱を短時間で柔軟な組織に回復することができるようになったわけですので、臨床応用の幅は格段に広がりました。そして、安定した質と量の刺激を可能にする治療機器を手に入れたことで、方程式を解く鍵がようやく得られたという実感です。あとは公式に当てはめればどこの部位にどのように治療をすればよいのか、自ずと答えが得られるという感じです。


● 質問者: 難しそうですが興味深いですね。


● 山口: 端的に申しますと、皮静脈の触察をしながら治療が行うことができるようになり、あとは血管解剖学的に、近位側から刺激部位の順番を決めて、さらに質 (電気、温熱、押圧、冷却)の組合わせが決まれば、人間の体は同じような反応をしてくれるということです。 刺激と反応との関係を臨床に応用する場合に根拠となるのは、過去の基礎研究の成果です。血管は刺激の量と質に応じて拡張したり収縮したりします。また以前、ラットの腸間膜血管で私が見つけた体性感覚誘発性血管運動 (日本脈管学会、日本微小循環学会にて発表) がヒトでも起こっている可能性が高く、患者さんでもたびたび観察されています。両者が同じ周期で起こっているのであれば、同じメカニズムで発現している可能性があり、うっ血や浮腫の改善に応用できると思います。


● 質問者: ますます楽しみになってきました。先生が近年、静脈をターゲットにして治療されている背景や謎が解けていきそうです。やはり静脈は大切だとお考えですか?

● 山口: 観察を通して、自然と運動器から循環器系、静脈系へと治療方針が変わっていったのですが、静脈の流れをうまく改善できた時は症状もかなり良くなっていると感じています。静脈は老廃物やCO2など、組織や細胞にとってはゴミや有害な物質の回収経路ですから、治療の対象とするのは理にかなっていると思います。

   

● 質問者: またセミナーで詳しくお聞きしたいと思います。ありがとうございました。


● 山口: ありがとうございました。

 

★ 10周年のご挨拶

 10年前の真夏に医学セミナーとして始まったこのセミナー。その後、月1回のマンスリーセミナーに変わり、年4回になってからはAMRicセミナーに改称。通算10年になりました。10年続けられたのは、熱心にご参加頂いた皆様のお陰です。そこで感謝の意味も込めて10年を振り返りながらのプチ特別企画です! 

写真:2009年8月に行った第2回 医学セミナー